もちろん、今も不安はある。

元受刑者の就労を支援したいという思いは強くても、この先、「やっぱり、あかんかった」ということにならいないともかぎらない。

しかし、私には、彼らが人間として立派に成長してやがて店長となり、自分がお世話になった刑務所や少年院に赴いて後輩を面接し採用するようになる、という夢と希望がある。

だから今後も志を変えるつもりはない。


このページを読んだときの衝撃と感動は今でも忘れません。

ようやく、この本を紹介できます。

それでええやんか!
中井政嗣
潮出版社
2012-04-04




「お好み焼きの”千房”」って知ってる?

そう聞かれたのは刑務所の中。お好み焼きの「千房」は地元高知にもある大阪発祥のチェーン店。当時の自分の認識はそれぐらいのものでした。

「知ってるよ。高知にもあるし。」

こう答えた僕に返ってきたのは、

「あそこの社長の本読んだ?元受刑者雇ってるで!」

という衝撃の内容。



「元受刑者を雇用?」

「しかも自分でも知ってるあの千房が?」

「何で?てかホンマか?」


そんな疑問がグルグルと頭を駆け巡る中、手に取ったのが本書。

(ちなみに本書は島根あさひのどこの工場にも「備え付け図書」として配布させており、私費で購入することなくすぐに読むことができました。)


その「まえがき」で出逢ったのが冒頭の引用文。

「ズドンッ!!!」

そんな感覚。

「こっ、これやっ!!!」

と心の中で叫びました。

「俺が元受刑者を雇ってやる。」っていうスタンスじゃない。

「元受刑者が更生し、さらにその後に続くものが出てきたらいい。その手助けをしたい。」そういうスタンス。

もちろんこの取り組みに対して、社内からは疑問や反発の声も上がったようです。


仮釈放中の受刑者を採用することについては、社内では「<千房>のイメージが悪くなる。」「この不景気で大変なときに、わざわざそんな人を採るなんて」と反対する意見もあった。


当然といえば当然。

「元受刑者」と「前科前歴の無い普通の人」。

どちらがいいか?

もちろん後者でしょう。それは、顧客視点でも、経営者視点でも、一緒に働く従業員視点でも。

いわば「メリットがほぼ無い」「企業としては非常に効率が悪い選択」なわけです。

さらにいえば。競争と変化が激しい飲食業。

正直、それは僕も思いました。

よく言われる「企業の社会的責任(CSR)」として意味合いであれば、「障がい者・高齢者雇用」や「環境問題への取り組み」そういったものの方がとっかかりやすく、対外的なイメージもいいはず。

なのに、あえて「元受刑者」を雇用する。

「何で?」と。

そんな疑問や反対意見に対して、中井社長はこう言われています。


しかし、私の決意は揺るがなかった。

「法的に罪を償ったらリセットしたげようよ。

この採用が成功したら、後に続く企業も出てくる。

僕は受刑者にも夢と希望を与えたいんや」


単なるキレイごとと思われますか?

自身のブランディングじゃないか?と。

僕は全くそうは思いません。

繰り返しになりますが、「元受刑者を雇用すること」は「企業にとって非常に効率が悪い選択」です。

メリットよりもデメリットの方がはるかに大きい。

それを百も承知の上で決断し、行動している。

その志には本当に尊敬しかありません。

別の著書に詳しくありますが、中井社長自身「中卒」で丁稚奉公をし、若い頃から相当苦労をしてきた。さらに20代で独立し、色々な非行少年少女を雇用し向き合ってきた。そういった背景がこの決断をする下地になっているんでしょう。


さらに、僕には個人的に中井社長を尊敬する理由があります。

島根あさひにいるとき、この本を教えてくれた他の受刑者から

「千房の社長に手紙書いたら返事返ってきた」

という話を聞きました。

「マジか?てか、知り合いでもないのに手紙とか出せるの?」

と最初は半信半疑でしたが、「”就職活動の一環として”という名目であれば出せる」ことが分かり、何度かの審査を経て手紙を出すことができ…。

手紙には罪名から事件を起こした背景、今どういう気持ちで生活し、出所後はどういう生き方をしていきたいのか、中井社長への感謝、等をつらつらと書き殴りました。

「まぁ、忙しいろうしな…」

正直、期待しつつも、返事が来なかったときのことを想定していました。

結論からいうと、

本当に返事がきました。

しかも、直筆(一部)で。食事券まで添えられて。

めちゃめちゃ嬉しかったです。

ほんの少しでも「想いが届いた」気がして。

その手紙は今でも手元に置いて家宝にしています。

食事券に至っては母が祖母の遺影の前にずっと飾っています。

僕もそうですし、親からしてもそれだけ嬉しかったんでしょう。

多分、というか恐ろしく忙しい日々を過ごされているこをは容易に想像できます。

その状況で、何の面識も無い見ず知らずの一受刑者に直筆の返信をくれた。

このとき僕は、

「この人は”本物”や」

そう確信しました。

こういった経緯があって僕は中井社長を個人的にも尊敬しています。



他にも本書には様々なエピソードが盛り込まれています。

「元受刑者の従業員が働く店でお金が無くなるという事態が発生。その後どうなったのか?」

「元受刑者の従業員をどうやって周囲がサポートしていったのか?」

「中井社長の考える人材育成で最も大切なこととは?」

等々。


もちろんキレイごとだけではないようです。

別の著書やインタビューでは「裏切られたこともある」と言われていますし、お金を横領されたこともあるようです。

元受刑者を雇用といっても、基本的な対象は「刑が軽い初犯の若い人間」です。


だけど、この中井社長の挑戦は未だに続いています。

そして、その動きはゆっくりとではありますが着実に広がっています。

本作(2012年刊行当時)では「美祢社会復帰促進センター」(山口)だけの面接でしたが、2013年、2014年には島根あさひにも求人が来ていました。

その辺りはまた別記事にて紹介します。


中井社長の挑戦、心から応援しています。

と同時に感謝も。

いずれは自分が「誰かを支えれる存在」になりたいです。


最後は中井社長の心の刺さるこの言葉で締めくくります。


世の中は一人では変えられない。

けれども、一人から始められなければ何も変わらない。

日本をよくするには誰かではない。

そう、あなたなのである。

(中井正嗣)

中井正嗣②



P.S.

今回紹介したのはこちら。
それでええやんか!
中井政嗣
潮出版社
2012-04-04



本作の第一弾的な位置づけの作品はこちら。



中井社長の人間、生い立ちが分かる一冊はこちら。