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この本の中には、「何人ものあの頃の僕」がいました。


仮釈放直後は、「あんなもの食いたい、あんなことをしたい!」と浮かれていたものの、数日、数週間経つと目の前の現実に打ちのめされていた自分が。


出所後の元受刑者の情報って、本当に少ないんです。


彼(彼女)らが、今何をしているのか。

どこで働いているのか。

どういう気持ちで生活しているのか。

出所した後、何に困って、それをどうやって克服または今もなお困っているのか。


当然のことかも知れません。


「前科を隠して生きていきたい。」


それは何より、元受刑者当人が思っていること。

以前にも書きましたが、元受刑者は頭のおかしい人や怖い人よりも、「怯えている人」がたくさんいます。

僕自身、そうです。

何かする度に、自分の前科が頭をよぎる。

僕の場合、特にその傾向が顕著です。

「前科のことを打ち明けると、一気に引かれてしまうのではないか?」

と考えるも、

「しかし、それも含めて自分の犯した罪…」

という至極当たり前の結論に戻ってくる。

その結論を、どう捉え、自分の中で消化し、前を向いていくか。


僕なりの答えが、

「元受刑者でも、もう一度人生をやり直せる。こそこそせずに。」ということを、自分の人生で証明すること。

でした。


そのためのブログ発信であり、来年予定している起業です。

自分の生き方を通して、

「こいつがやってるんだったら、俺もやれる。」とか、

「俺でもできるんじゃないか。」とか、

そう思ってほしい。


「どう?俺前科持ちだよ?ねえねえ!」

みたいな昔の悪自慢とは、違う。


こうしてブログを書き出して、多くの人たちと縁が出来、実際にお会いできる機会も出てきました。


でも、やっぱり孤独なんです。


「当事者にしか分かってもらえない感覚」

っていうんですかね。

ふさぎ込んでるとか、かまってちゃんだとか、そういう感覚ではなくて、

「あぁ、やっぱり違うな…」

と思うことって、あるんです。

自分が考えすぎっていうのもあるとは思いますけど…。


そんな今の僕に、この本に出てくる「元受刑者の肉声」は何より貴重で、励まされると同時に、今の現実を厳しく突き付けられました。

「こういうことをが俺は知りたかったんだっ!」

という気持ちと、

「やっぱりそうだよな…」

という気持ち。


この本は、多くの人にとっては全く興味を惹かれない1冊であり、埋もれていく作品なのかも知れません。

でも、僕にとっては、「社会にぜひ、ぜひ知って欲しい1冊」。

というか、「僕が一番紹介しなきゃいけない一冊」。

そう思って、この記事を書いています。






以下、本書に登場する「元受刑者たちの肉声」。


①Aさん。無銭飲食で詐欺罪になった、39歳・男性


「最初はハローワークに行ったんですが、求職者が多くて探しきれず、それで求人広告を頼りに直接あたるしかないと思ったんです。面接したのは三社で、決まったのが今の食堂ですが、履歴書に書いた住所が保護会です。相手が保護会のことを知っているのか、それが心配でした。採用通知がきたのは面接三日後。そのときは、ほんと、嬉しかった。」


「保護会」っていうのは、「身よりのいない出所者に対して、一時的に住む場所を提供する施設」です。更生保護施設、ともいいます。

時給800円のアルバイトだそうですが、本当に嬉しかったと思います。僕も、出所後に初めて仕事が決まったときは心底「ほっ」としました。

「履歴書の経歴欄はどうしたのか?」なんていう、ことも僕なら聞いてみたいのですが、ここら辺は「著者が当事者じゃない」ってことが影響してるんでしょうね…。



②Bさん。出所後、詐欺で稼いだお金で事業を成功させたプロの詐欺師。48歳・男性


「今の事業が成功したのは、シンガポールで稼いだ数千万が元手になっています。もちろん判決に従って、一年の仮釈をもらって二年の刑を務めてきました。」

「妻にも話していない自分の過去を、これだけ話したのは初めてです。なんか、自分がこだわっていた過去が吹っ切れた感じでホッとした気分です。」


この人は、日本やシンガポールで詐欺を働き、計17年間刑務所に入っています。成人になってから娑婆にいた時間でいうと、11年。刑務所暮らしの方が長い、「懲役太郎」であり「プロの詐欺師」。

やはり、今の奥さん(知人から紹介され正式に結婚)には一切の過去を話していないそうで…。それまでの自分の生い立ち、全てを「嘘」で塗り固めているんでしょう…。僕がインタビューする立場なら、ここかなり突っ込んで聞くと思います。「どんな嘘?」「ずっとバレないものなのか?」「騙しているという罪悪感は?」「お子さんは?」等々。

それがこの人の選んだ道。だけど、僕はまた違った道を歩みたいと思います。別々の、けもの道。



③Cさん。強盗致傷で6年間、放火で7年8か月つとめた43歳・男性


「彼と話していても、元受刑者という印象はまったく受けない。どこでも見かける中年男性である。刑務所を出てから2か月足らずしか経っていないとは、とても思えない雰囲気を身に付けている」


これは著者の談です。刑務所の中でも同じように思う人、かなりの数いました。「こんな人の良さそうな人が、何で?」と。

さらにこの方、受刑生活で「このままじゃいかんっ!」と思い、様々な資格を取られたようです。


「時計の針を戻すことはできませんが、塀の中で無為な時間を過ごすのはもったいないと考えて、いろんな資格に挑戦しました。少年院では高卒の資格を取り、それをバネにして、電気工事士、二級左官技能士、二級ボイラー免許を取り、刑務所では簿記一級、二級建築士、さらに通信教育で大学卒の資格もとったんです。」


簿記一級に大卒資格。それだけでもかなり勉強されてきたことが容易に想像できます。多分、刑務所の中では他の受刑者や職員からみても「模範囚」であったことは間違いないと思います。

ただ、この後に続く話が現実を物語っています。


だが、出所後の現実は厳しかった。たとえ資格をもっていても、不況の今日、希望する職種はなかなか見つからない。それでも、彼は履歴書を書いては毎日就活に飛び回っていた。求職情報ははもっぱら業界誌とハローワークだという。


僕も、刑務所の中で本を読み漁り、「自意識が肥大した状態」でした。職業訓練で資格をいくつかとったものの、数か月で取れる資格は、やはりそれぐらいの価値なわけで…。

「就職市場における自分の価値の低さ」を否が応でも認めざる負えませんでした。

また、この方の「更生プログラム」に関する認識に、自分は非常に共感します。


「更生ですか?正直いって自分いは、まだその言葉がピンとこないんです。刑務所にも更生プログラムという教育の時間あります。そこでは。「罪を反省して反社会性を克服する」なんて指導を受けるんですが、現実感が無いんです。むしろ、教育は出所後に役立つ職業選択とか求人情報の紹介など、出所してすぐに役立つことをやってもらいたいんです。自分はいま、生活を立て直すために就活に必死です。これも更生じゃないんですか。」

ですが、現実はほんと、厳しいです。なんといっても、更生の早道は働く場所の確保。生活の見通しがつかなければ、また犯罪に走ってしまう。自分は、そのことを今回は、実感しました。」


そうなんです。役に立たない、出所後の生活に何の意味も無さない更生プログラムに時間とお金と労力を費やすぐらいなら、求人情報とそれに求められる能力を開示した方が圧倒的に有益なんです。当人にとっても、社会にとっても。



④Dさん。車上荒らしで懲役2年。40歳・男性


今の会社は従業員3人の小さな会社で、社長は俺の前歴のことを知っています、他の者は知りません。雑談の中で警察や刑務所のことが話題になることもありますが、そのときは一歩引いてしまって、話の輪の中から抜けてしまうんです。そうすると、仲間は”変な奴だ”とこっちを見るんですよ。

あるとき、現場で昼飯の時間に”ムショ帰り?”って相手は冗談で聞いてきたんでしょうが、俺、そのときはムカついて、”冗談もいい加減にしろ”って相手を怒鳴ってしまったんです。それからです、仲間となんとなく溝ができてしまったのは…。


このとき、Dさんは刑務所帰りの人間に世間は冷たいと実感し、真面目にやることに自信を失ったと言っています。


ムキになった自分を反省しました。話題を軽く振っておけば済んだことを。でも、あのときは刑務所帰りのことを、仲間が知ってしまったのではと、疑心暗鬼になっていました。俺にひがみ根性があったんですね。この気持ち、あなたにはわからないと思いますよ。


僕自身、本当によく感じることです。「元受刑者」「前科」というレッテルを一番気にしているのは、周りでもなく本人自身なんです。そして、それがねじまがった挙句、卑屈になり、塞ぐ込み、閉じこもってしまう…。自業自得と言われれば、それまでなんですが…。僕もこのブログがなかったら、本当に新しい出会いに対して臆病になっていたことだと思います。




作中では他にも「覚せい剤で逮捕されたシングルマザー」や「30年の刑期を務め、仮釈放で出所した無期懲役囚」の話等、多くの方のインタビューが記載されています。

他にも「刑務所の分類」から「現在ある取組」、「著者の提言」など、当事者としては身近に感じる情報ばかりです。


ただ、著者の方の視点と自分の視点は少し違っていて、特に「就職」や「結婚」に関しては、自分であればもっと突っ込んで聞いた、というより「聞けた」と思います。

自分ができることは、そうした「当事者目線でのインタビューであり、情報発信」なんじゃないかと、本書を読み終えて再確認させてもらいました。


あとがきをふくめても218ページの新書。

本としてのボリュームは大きくはないにも関わらず、非常に有益な情報がここにはありました。


ぜひ、読んでほしい1冊です。


それでは、この辺で。



けもの道をいこう。