NewImage




「サイコパス」

 

この言葉とその存在を認識している人は、一体どれだけいるんだろうか。

僕自身、刑務所に入って初めてこの言葉を知りました。

 

タイトルにもある通り、一言でいえば「良心をもたない人たち」

 

本や映画では、よく「残虐非道な凶悪犯罪者」として描かれていることが多い。
 

もはや伝説といっても過言ではない「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターや、最近のヒット作でいえば「悪の教典」の蓮見薫。


彼らの悪事には「ためらい」というものがない。「遮るもの」がない。


この世に彼らのような人間はどれぐらいるのか?
全員が犯罪者になりうるのか?
そもそもどのようにしてサイコパスは作られるのか?
 

自分の中に湧き出てきた興味の赴くままに、本書を手に取りました。(以下、引用部は全て本書より。)


良心をもたない人たち (草思社文庫)
マーサ スタウト
草思社
2012-10-04





①「サイコパス」の定義とは?


NewImage


精神医学の専門家の多くは、良心がほとんど、ないし全くない状態を「反社会性人格障害」と呼んでいる。

アメリカ精神医学会発行の「精神疾患の分類と診断の手引き」第4版によると、「反社会性人格障害」の臨床診断では、以下の7つの特徴のうち、少なくとも3つを満たすことが条件とされている。

1:社会的規範に順応できない
2:人をだます、操作する
3:衝動的である、計画性がない
4:カッとしやすい、攻撃的である
5:自分や他人の身の安全をまったく考えない
6:一貫した無責任さ
7:他の人を傷つけたり虐待したり、ものを盗んだりしたあとで、良心の呵責を感じない
 

なるほど、かなり凶悪そうだ…。と思う一方で、「これはけっこう当てはまる人多いんじゃないか?(自分も含め)」と思ったり…。なお臨床家の中には、上記の条件にくわえて「サイコパスに共通する特徴」として



・口の達者さと表面的な魅力 
・病的に嘘をつき、人を騙す
・感情の浅さ。(底が浅く、長続きせず、ぞっとするほどの冷たさを持っている)
 

などを挙げる人が多いとのこと…。怖いな…。

ちなみに「サイコパス(サイコパシー)」=「精神病質」で、他にもよく使われる「ソシオパス(ソシオパシー)」=「社会病質」とは同じ意味です。(厳密にいえば多少の違いはあるかもしれませんが)


 


②どれぐらいの人数がいるのか?


NewImage


現在アメリカでは人口の4%と考えられている。25人に1人の割合だ。
 

いやいや、多すぎでしょ。

クラスに1人や2人はいる計算になりますよね…。これが事実だと仮定すると、僕たちは人生において「必ず何人ものサイコパスに出会っている」ということになります。ちなみに自分は全く気付いていませんでした。今振り返れば、「あの人にはサイコパスの気質があったのかな?」と思うこともありますが。日本の人口を1億2000万人とすると、「全国には480万人のサイコパスがいる。」ということに…。
 

そうなると、、ここで1つの疑問が浮かび上がってきますよね。


 


③「サイコパス」は全員が犯罪を犯すのか?


NewImage


日本の刑務所に収監されている人間は、近年約6〜7万人で推移しています。

これから分かるように、

「サイコパス」=「犯罪を犯す人」ではないんです。
 

先に例としてあげたレクター博士のような怪物が「一般的なサイコパス像」として世間に認知されているように感じるのですが、実際の社会では「良心のない人々はほとんど目立たない」。意外といえば意外だし、分かる気もする。「犯罪とまではならないけど、ためらいなく他人を傷つける」ならかなりの数がいそう…。
 

ちなみに、本書では「刑務所内でのサイコパス比率」を調べた結果も記されています。


アメリカの刑務所にいる囚人の中でサイコパスはおよそ20%にすぎなかった。
 

人口全体(アメリカの場合)の比率は4%なので、その約5倍。

たしかに刑務所では一般社会よりはサイコパスの割合が多い。

しかし、これは見方を変えると「8割以上の人間がサイコパスではない、良心がある人にも関わらず犯罪を犯してしまっている。」ともいえます。
 

なので、このデータだけをみると「サイコパスは一般人よりも犯罪を犯す確率は高いが、多くは普通に社会で生活しその人生を生きている」んですね。


 


④人は誰しもが「サイコパス」になりうるのか?


NewImage


大事ですよね。

僕は逮捕されてから、「人は環境によっていくらで残酷になりうる。」その事実を強く感じるようになりました。

「俺は大丈夫」「私は大丈夫」と言っている人も、そうでない人も関係ない。

「みながみな犯罪を犯す可能性がある」という前提を。

有名な所でいえば第二次世界大戦のナチスによるユダヤ人大量虐殺、コソボ紛争、さらにはこのブログでも紹介しているスタンフォード大学での「擬似監獄」の実験、インドネシアの大量虐殺、ブラジルの貧困街、等々。


(参考記事①:僕が人をころしていないのは「たまたま」だと思う。「アクト・オブ・キリング」

(参考記事②:「es」明日はあなたも犯罪者?

(参考記事③:「シティ・オブ・ゴッド」報われない世界。

 

だから、僕は「サイコパスの気質」にも「振れ幅」のようなものがあって、それが状況によって強く出るか出ないかの違いかと思ってました。

その点について、本書は戦争での心理状況を明らかにしようとした、かの有名なミルグラム実験を引用し説明しています。

 

この実験はかんたんに言うと、

「人は権威からの命令によってたやすく人殺しになりうる。」

という事実を証明したものです。人により「服従しやすい人・しにくい人」の個人差はあるようで…。「なるほど」と思う例えが書いてありました。



たとえば、話をわかりやすくするために、100人の成人でつくられた社会があったとしよう。

その中にサイコパスは4人いる。

それ以外の96人のうち、なんの疑いもないしに権威に従う者が62.5%、残りの36人が自分の行動の重荷を背負う強さをもった人たちだ。
 

つまり、サイコパスや環境に影響されにくい人は「全体の約3割強しかいない」ということです。(原文自体が「%」と「人」がごっちゃになって分かりにくいのでそう解釈。)

この人たちでさえ、生まれた環境や育った環境が劣悪ならば、そのうち「サイコパス的な行動」を取るようになることでしょう…。

退役軍人に「なぜあなたは人を殺したのか?」と聞いて、一番多く返ってきた理由が、

「命令されたから」

という話はあまりにも有名…。





 

⑤「サイコパス」は生まれつきなのか?

NewImage


結論からいうと、


「その可能性が非常に高い」


です。(ここの所はまだわかっていない部分が多いようです。)


ただ、親がサイコパスであったからといって、子どもがサイコパスとは限らない。逆もまたしかりで、親が一般人だったとしてもサイコパスの子どもがが生まれてくる可能性は大いにある。

なので、僕は凶悪事件の加害者家族の人たちが(特に親)「自分の育て方が悪かった…」と自分で自分を責めたり、「家庭環境が悪かった」と周囲が決めつけるのも「実は違うことが多いんじゃないか」と考えるわけです。どんなに良い家庭にで良い環境にあったとしても、「やる人間はやる」とでもいいましょうか…。もちろん環境を整えることによって犯罪の発生する確率を下げることはできるとは思いますが。



他にも、サイコパスの脳について大変興味深い記述がありました。



彼らの脳は「愛」にも「椅子」にも同じ反応をする。
 

普通の人の脳では、「愛」という言葉を聞くと感情を司る脳の部位が強く反応するらしいんですが、サイコパスの脳にはそれがない。

「愛」という言葉も「椅子」という言葉も「同じただの言葉」として捉えられているんだそうです。

大多数の人が、他人をむやみやたらに傷つけたりしないのは「脳のミラーニューロンという共感能力を構成する神経の働き」という記述をどこかで読んだ気がします。(池谷さんの本かな?)

僕、サイコパスって「良心をもたない人たち」ではなく、「他人への共感能力が著しく低い人たち」と言い換えた方がしっくりくると思いますね。

共感能力が他の人に比べて圧倒的に低い。
 

この本では主に臨床診断や主観的なチェックシートを用いてサイコパス診断しているようですが、こういった「脳レベル」での診断が現代ではもうできそうな気がします。

期待!




⑥「サイコパス」は果たして「絶対悪」なのか?


NewImage


知っている方も多いと思いますが、実はそうでもないんです。


本書でも言及していますが、時代が変われば「英雄」になった可能性だって大いにあり得る。現代でも戦争時、特に「現場」では「優秀な兵士」とすらなりうるんです。

さらにある例としてサイコパスの経営者の話が出てきますが、これもサイコパスの可能性の1つ。

「他者に対する思いやりがないからこそ、目の前の感情に振り回されずに冷静(周囲には冷徹ともいえる)な判断を下せる」というわけです。

ここら辺に関しては、また面白い本がありますので後日紹介します。


 

⑦日常生活におけるサイコパスの見分け方・注意点

NewImage


これまで色々と書いてきましたが、僕たちにとって一番大事なのはこれ。

本書では以下のようなポイントが挙げられています。




1:世の中には文字通り良心のない人たちもいるという苦い薬(認めたくない現実)を飲み込むこと。

2:自分の直感と相手の肩書きが伝えるものとのあいだで判断が分かれたら、自分の直感にしたがうこと。

3:どんな種類の関係であれ、新たな付き合いがはじまったときは、相手の言葉、約束、責任について「3回(目までは許す)の原則」をあてはめてみるとこと。

4:権威を疑うこと。

5:調子のいい言葉を疑うこと。

6:必要なときは、尊敬の意味を自分に問い直すこと。

7:(駆け引き、挑発の)ゲームに加わらないこと。

8:身を守る最良の方法は、相手を避けること、いかなる種類の連絡も断つこと。

9:人に同情しやすい自分の性格を疑うこと。

10:治らないものを治そうをしないこと。

11:同情からであれ、その他どんな理由からであれ、サイコパスが素顔を隠す手伝いはぜったにしないこと。

12:自分の心を守る(優先)すること。

13:しあわせに生きること。
 

逃げるが勝ち!



⑧まとめ

NewImage



・サイコパスとは「良心をもたない人」であり「他人に対する共感能力が著しく欠けている人」を指す。


・診断基準として、以下の7つのうち3つが当てはまるとサイコパスが疑われる。
1:社会的規範に順応できない
2:人をだます、操作する
3:衝動的である、計画性がない
4:カッとしやすい、攻撃的である
5:自分や他人の身の安全をまったく考えない
6:一貫した無責任さ
7:他の人を傷つけたり虐待したり、ものを盗んだりしたあとで、良心の呵責を感じない
 

・その比率は人口の約4%と考えられており、95%以上のサイコパスは、犯罪を犯すことなく一般社会で普通に生活している。

・サイコパスは場所によれば「成功者」となりうる。
 

・サイコパスの脳には特有の性質がある。
 

・本来サイコパスではない人も、環境さえ整えばサイコパス的な行動をとることがある。
 

・サイコパスへの注意点をしてはいくつかのポイントがある。



 

何となく、で認識していた「サイコパス」の存在。

目から鱗の箇所もあれば、「やっぱそうだよな」の所もあり。
 

本書を読み終えて、

・「国や地域にによるサイコパス比率の比較」(一応記述はありましたが具体的な数字ない)
・「サイコパス脳のMRI/CT画像診断」(これに関しては別書籍あり)
・「サイコパスの可能性(これも同様)」
・「本当に人口の4%いるのか?」(実は諸説あり)
・「犯罪を犯すサイコパスとそうでないサイコパスの決定的な違いは?」

など、新たな疑問や興味が湧いてきました。 
 

「反省」や「更生」がそもそもできない脳であれば、いくらプログラムを組んだ所でそれは全て徒労に終わるわけで…。「可能性がある人へのアプローチ」と「サイコパスへのアプローチ」はまったく異なるはず。
 

この分野、もう少し掘っていきたいと思います。
 

それでは、この辺で。


 

けもの道をいこう。




良心をもたない人たち (草思社文庫)
マーサ スタウト
草思社
2012-10-04