道


「まあ、もし上手くいかんかったらもう一回雇ってもらったらいい。俺が言うちゃうき。」 


退職まで後2日。

休みの関係で今日が最後の顔合わせになる人もいる。冒頭のセリフは、その人から今日かけてもらった言葉。

辞める以上はもう戻る気は一切無いし、今の仕事に未練も無い。もう一度雇ってもらう気なんてさらさら無い。そもそもセリフ自体が社交辞令かもしれない。


でも、嬉しかった。


この言葉をかけてくれた人は、何かと我が強いうちの会社で、唯一で周囲の誰もが認める「できる人」。怒ったときはフルスロットルで鬼だけど、普段は優しい。特に後輩には。もちろん、仕事にも厳しいし細かい。

勝手な解釈かもしれないけど、僕はこの人に最後に認めてもらった気がした。お世辞は言わない人だから。


刑務所の中ではずっと「俺はお前らとは(周囲)とは違うんだよ」と心の中で思ってガッチガチの仮面を被って生活してきた。距離を保って生活してきた。とにかく本に費やしてきた。

そのことは後悔していないけど、自意識だけは肥大していった。勝手に自分のレベルが上がった気になって、ちっちゃな世界の中で鼻だけが伸びてしまっていた。


そして出所後、いともカンタンにその自意識は捻りつぶされた。


今の仕事を始めたときも、上手くいかないことがあると最初は言い訳ばっかりしてた。

「俺には向いていない」
「俺の全然強みや特徴を活かせてない」
「何てレベルの低い職場だ」
「本来こんな所にいるべきじゃない」

今でも変わっていない考えもある。

でも、大半はミジンコより小さい自分の自意識を自分で守ろうとしていたにすぎない。

ダサかった。今も、まだまだダサい。


仕事を辞めるってことは、もちろん人の数だけそれぞれの理由があると思う。

「ガチのブラック企業」
「人間関係がどうしても合わなかった…」
「病気、体調の都合で。」
「できちゃった☆」
「独立しまっせ!」 

どれが良いとか悪いとかじゃない。個々の事情と価値観があるから。ただ、僕は立つ鳥の立場としては後を濁したくない。

そして、


その仕事を辞めるときは、必要とされる、惜しまれる人間になってから辞めたい。


これは僕の意地でもある、仕事に対してのちっぽけだけど大事なプライド。

今日は嬉しい言葉以外の他に、最近の気の緩みも指摘してもらった。自分でもうすうす感ずいていたけれど、やっぱり見てる人は見てる。


言い訳は全力を出し切ってからでいい。

変えたり逃げるのは思いっきりやりきってからでいい。

じゃないと、けっきょく中途半端で後悔するのは自分だから。


けもの道をいこう。