今日の後編では、約17年間保護司(※注)として活動してきたのちヒューマンハーバーを設立した、創業者の副島勲(そえじまいさお)さんにインタビューさせていただきました。

(※注)「保護司」とは出所した仮釈放中の元受刑者のサポートをする方達(一般人)のことです。月に2回ほど面談をし、仕事や家庭など様々な相談にのるのが主な役割となります。一人の方が多くの元受刑者を担当するにも関わらず、基本的に給料は支給されません。そのため「想いを持った人」で無いと務まらない役割といえるでしょう。 


きっかけは保護司として担当した一人の元受刑者。

−−−−−ヒューマンハーバー設立のきっかけを教えていただけますか?

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現在副社長をしている元受刑者との出会いがきっかけでした。彼を保護司として担当した際、その優秀さに気づき立ち直せたいと思いました。そして「彼となら一緒に何かできるのでは」と。

出所してからの元受刑者の環境は大半が「ないない尽くし」です。お金がない。仕事がない。頼れる人がいない。そんな環境から色々な資源が「ある」状態に変えたかったんです。

そこから2人で「刑務所から出てきた人たちを支援できる具体的な方法はないだろうか」と話し合っていきました。

−−−−−「元受刑者の方と一緒に始められた」とは驚きです。その後、産廃棄を選ばれた経緯などを聞かせていただけますか?

「出所してからすぐにできる仕事は何か」を考えたときに出てきた候補が産廃業でした。しかし、私にも相手にも産廃業の経験が無い。そこで市場調査を開始したんです。

のしかかるお金の問題。それでも譲らなかった強気の姿勢。

−−−−−当時すでに70歳を迎えていたにも関わず、そのバイタリティーには恐れ入ります‥。素人2人でビジネスを始めるとなると色々な苦労があったと思いますが、特に困られたのはどういった点でしょう?

まずお金の問題です。

調査の結果、1億近いお金が必要なことが分かったのですが、私たちにはお金が無い。当時は会社自体もまだ立ち上げていない。

そこで私はこれまでの人脈を最大限に活用して、関わりのあった中小企業の社長の方々を中心に「出資者」ではなく「賛同者」を集めることにしたんです。「こういう会社を立ち上げようと思っているので、設立の際は出資していただけませんか」と約束を取り付けていったわけです。

−−−−−「お金をもらわずに約束だけを取り付けていく」というと僕からするとかなり不安に聞こえますが、結果的にいくらのお金が集まったんでしょうか?

数々の理解ある方々に恵まれ、合計で5040万円の出資を頂きました。もちろん約束を取り付ける際には「元本以上のリターンは無い」ということもしっかり説明しています。

その後は本当に偶然空き地であった現在の「ある蔵」がある土地を見つけ、出せる金額の範囲内で貸していただけることになったんです。

繰り返しになりますが、副島さんはそのときすでに70歳を超えています。恐るべきバイタリティーです‥。約束だけにも関わらず5040万円という金額を集めれたのは、その熱意と17年間に渡る地道な保護司活動の賜物でしょう。

出資の際も「一口100万」と中小企業相手にしてはかなり強気の金額を提示し、「一口10万に」といった交渉にも応じなかったとのこと。その理由は「一口10万で集めていても、もう自分が70歳だから死ぬまでに間に合わないと思った」。副島さんの覚悟が伝わってくるエピソードです。

そこからも「利益が出ても配当金が元本以上に出ない会社」(ユヌス・ソーシャルビジネス)という特異な事業であったため、設立の認可が下りるまで2ヶ月の足止めくらったりと様々な壁があったようです。それらを一つ一つ乗り越え今に至るヒューマンハーバー。


会社を立ち上げる上で批判は無かった。

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−−−−−以前に本で「元受刑者の自立支援施設を立ち上げようとしたら周辺住民から反対運動が起こった」という記載を目にしたことがります。こちらではそういった批判や反対運動のようなものはあったんでしょうか?

近隣の住民の方たちから批判のようなものは特にありませんでした。「ある蔵(就労支援施設)」のある場所は元から工業地帯でしたし。

「立地」も一つの重要な要素のようです。

たしかにそれまで工業地帯であったところにどんな業者が入っても、近隣住民はそこまで気にもとめないでしょう。しかし、これが住宅地のど真ん中に、それも大々的に「宿泊施設」や「就労施設」を建てるとなるとまた少し話しは変わってくることでしょう。


すべての人を救うのは無理。力の及ばないことはできない。

−−−−−少し話は変わりますが、今年話題になった「元少年A」のような人間は更生できると思いますか?

特別(サイコパス的)な人は少ないけれどもいます。私にはすべての人を救うこうとは無理です。力の及ばないことができませんし、変わる気が無い人は変わりません。そもそもそこと一緒にしてはいけないんです。

やはりそうですよね。というのが率直な感想でした。

長年保護司をされてきた副島さんでも「とても救えない」と思う人は少なからずいたようです。また「力の及ばないことはできない」という言葉は本当にその通りだと思います。「あの人もこの人も」となると結局アプローチの仕方がブレてしまう。

事業が大きくなれば話は違ってくるかもしれませんが、今はまだ成功事例を着実に積み上げていく段階。まずは「本人が更正したいという意思をもっている人」へのアプローチの仕方を最優先に考えるべきでしょう。


大企業には「お金」ではなく「仕事」をもらう。

ヒューマンハーバーでは基本的に出資は中小企業に限り、大企業にはお願いしていないそうです。その理由を副島さんはこう言われています。

社会的責任と訴えいくらお金をもらっても、企業の業績が悪くなれば切られるかもしれません。

しかし、企業から廃品が出る限り仕事は切れません。大企業はそうすることによって元受刑者を間接雇用し社会的責任を果たす。そして私たちは仕事をいただく。お互いにとってメリットがあるんです。

お金は結局一過性でしかなく仕事こそが持続性の鍵。

いくら国が「出所者支援を」といったところで大企業としては実際に元受刑者を雇用するのは難しい。そこでお金ではなく「仕事をください」といえば「間接雇用」として大企業側は社会的責任を果たすことができ、ヒューマンハーバー側は仕事を生み出すことができる。互いにメリットのある付き合いができる、というわけです。


ここは永久就職先ではない。「100人の経営者を生む」の意味。

ヒューマンハーバーのスローガンである「100人の経営者を」。これには次の意味があるそうです。

ここは永久就職先ではありません。一人一人が巣立っていく「港」のような存在でありたい。「ヒューマンハーバー(人の港)」という社名にはそういった意味が込められています。

ヒューマンハーバーの特徴といえる点です。これまでの支援は「元受刑者を雇用する」というものが大多数でした。

しかし、ヒューマンハーバーでは「元受刑者を期間を設け一定期間雇用し、最終的には独立や再就職を促す」というやり方をとっています。一つの企業が抱えることのできる人の数や支援には限界があります。そこで「仕事」を与えることと同時に「稼ぎ方」も教えているのです。

また「一人の元受刑者が独立する」ことは一般の想像よりもはるかにメリットがあると副島さんは言われます。

一人一人が稼ぐ力を得て独立できれば、まずは本人が一番喜ぶ。
次に周りの親や家族が泣いて喜ぶ。
そして元受刑者が自立することによって再犯率が下がれば、地域や社会も喜ぶ。
さらには市・県・国は1人の納税者が生まれることいよって喜ぶ。

刑務所では税金をただただ使う立場であった彼らが、今度はその税金をしっかり納める立場になることによって多くの良い循環が生まれるのです。

多くの説がありますが、刑務所で1人の受刑者かかる1年間のコストは300万円といわれています。元受刑者が仕事に就き自立することで、再犯率を下がるのはもちろん国税金削減につながり、さらには税収の増加も起こる。

「元受刑者雇用」や「元受刑者が独立」というと一見本人だけにしかメリットがないように思われます。しかし、こうして考えると、地域社会、国、ひいては僕たち一人一人の国民にもメリットがあることなのです。

ヒューマンハーバーはその事業モデルを全国に普及させていこうと考えており、その第一歩として大阪の美容室がヒューマンハーバー大阪として今年8月に事業を開始しています。


今後の課題・展望

−−−−−今後の課題や展望を教えていただけますか?

還元できていない利益をこれから地道に返していくこと。これはもう大前提です。NPOではなく株式会社として、ビジネスとしてヒューマンハーバーを始めたわけですから。二宮尊徳の「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」であります。

また、今後はもっと協力企業の幅を広げていきたとも考えています。というのも、人間には誰しも適正があるのです。出所した元受刑者の人たちが仕事を途中で投げ出してしまうのは、もちろん仕事に取り組む姿勢もあるでしょうが、会社との相性が悪かったというケースもあると思うのです。例え最初の会社で無理であったとしても、次の会社で自分の能力を発揮できるような流れをつくりたいのです。

ビジネスである以上、利益を出さなければいけません。

その点でいうとヒューマンハーバーはまだまだこれからの状態です。全国的に注目されており素晴らしい事業理念ですが、その中でも会社としてしっかり利益を出していくことができなければいずれ廃れてしまうのは世の常です。

その理念が本当に実現可能なモデルなのか?今後の活動を注視していく必要があります。

また「出所者がつける職業が限られている」のも離職率が高い原因のひとつでしょう。元々の学力や能力の問題もありますが、(例えば受刑者の平均IQは全国平均よりも10程度低い※僕の担当だった調査官談)人には必ず「伸びる分野とそうでない分野」があると思います。大工などの力仕事では芽が出なかった人が美容師としてセンスを開花させるということも大いにありえます。副島さんはすでに福岡にあるヒューマンハーバーとは違った業種の企業に声をかけ、何社かに賛同をいただいているようです。

その他にもこういったことを言われていました。

女性の元受刑者が働ける場所をつくっていきたいんです。

これはついつい見落としがちな視点なのですが、もちろん受刑者の中には女性もいます。しかし、元受刑者が就ける仕事の多くは「3K」であることが多い。中々女性が働くには厳しいものが‥。肉体労働以外の事務的な作業など、そこまで体力を必要としない職種へ裾野を広げることも必要でしょう。


始まったばかりの大きな一歩

ヒューマンハーバーの取り組みはまだまだ始まったばかりです。教育の受講生は卒業生も合わせて8名。独立した人間も1名。まだまだ様々な葛藤があると思います。ただ、だからこそ今はぶれずに「現在の段階でどういった人を、どれぐらいの人数支援できるのか」を明確にし、着実に事業を拡大していって欲しいと思います。

また、創業者の副島さんはこうも言われていました。

よく聞かれます。

「で、結局今はどれぐらい利益が出ているのか?成果はどうなのか?」と。

たしかにその通りです。

ただ、私は例え一人でも救われる人がいるのなら、この事業を続けていく価値はあると思っています。
そう、信じています。

「やった方がいいのは分かっているが、誰もやろうとしないこと」は世の中に溢れています。理由は様々あるでしょう。労力に対してのリターンがないから。根強い反対勢力が存在するから。世間の目が厳しいから。しかし、僕は今回の取材で「実際にやっている人たち」を目の当たりにしました。

始まったばかりの大きな一歩。これからもこの目で追い続けていきます。

お互いに、けもの道をいきましょう。


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お忙しい中、本当にありがとうございました!


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