玄秀盛

「新宿歌舞伎町で、その名を知らぬ者はいない」そういっても過言ではない人物である。

深刻な悩みを抱えた人間の相談に全力で乗り、その解決に尽くす「公益社団法人日本駆け込み寺」の代表理事であり、一方で出所者を支援する「一般社団法人再チャレンジ支援機構」の理事の顔も持つ男。

僕が玄さんを知ったのは、刑務所の中。当時の新聞広告で見かけた、著作「新宿歌舞伎町駆け込み寺」を読んだのがきっかけだ。本を読みながら、僕は衝撃を受けた。そこには、漫画のような世界が広がっていたからだ。

・何人もの親がいる。
・今まで3000人は抱いた。
・小学生の時に、釘のついたバットで鼻の下を貫かれた。
・大阪・西成区で、ヤクザの中でただ一人カタギの手配師をしていた。
・HIVと宣告され、真っ先にしたことが「自分をこれまで貶めた人間の具体的な殺人計画の立案」
・HIVでは無かったことが分かり、それまでの生き方が虚しくなり「これからは世のために尽くそうと決意。「駆け込み寺」を創設。

「なんだ、この人は」

良い悪いは別にして、どんなに素晴らしい経営者の自伝も霞むほどのバイタリティが、生き方が、肌感覚で伝わってきた。しかし、僕は当時、玄さんに会おうとは思えなかった。それは、作中に書かれていた、

「男は死ね。自分で何とかしろ。」

の言葉があったからだ。玄さんは、女性や子供、力の無い弱者には徹底的に優しい。今まで30000人以上の相談に乗り、今なお骨身を削って相談者と向き合っている。しかし、一方で男には徹底的に厳しかった。「自分の力でなんとかせぇ」そう言われている気がした。僕なんかにとり合ってくれるハズがない、と。

そんな玄さんが、歌舞伎町で「元受刑者を雇用する居酒屋を立ち上げた」というニュースを目にしたのは、去年の5月。

「あんなに批判していた、男性(元受刑者)の支援を何故始めたのか?」

「新宿駆け込み餃子」最後の記事は、発案者である玄さんに、そんな率直な疑問や今後の展望を聞かせて頂いた。

<玄秀盛プロフィール>※本人HPより引用 

1956年、大阪市西成区生まれ。両親の離婚などによって、複雑な家庭環境で育つ。「4人の母」「4人の父」のもとを転々とする。

中学卒業後、自動車修理工を皮切りに、すし職人、トラック運転手、葬儀業、キャバレー店長など、28業種に及ぶ職業を経験。 その後、経営者としての才覚を発揮し、建設、不動産、金融、調査業など、10社以上の会社を設立する。最盛期には6社を同時経営。その一方、1990年には比叡山の酒井大阿闍梨のもとで得度し、僧籍に入る。

2000年、献血の際に、自身がHTLV-1(白血病をおこす可能性のあるウイルス)の感染者であることを知る。それを機に過去と決別し、2002年、「NPO法人日本ソーシャル・マイノリティ協会」(通称・新宿歌舞伎町駆け込み寺)を立ち上げる。 家庭内暴力、DV、虐待、ひきこもり、ストーカー、金銭トラブルなど、悩み苦しむ人々を救済するため、そして自身の「生きた証」を残すため、「現代の駆け込み寺」の活動に身を投じる。当初は24時間体制で面談・電話相談に応じていた。

2011年、NPOとしての活動を停止し、「一般社団法人日本駆け込み寺」を設立、その代表に就任する。同年12月、駆け込み寺をモデルにしたテレビドラマ『愛・命 ~新宿歌舞伎町駆け込み寺~』(主演・渡辺謙)が放送され、話題に。 2012年11月、内閣府より公益社団法人の認可を受け駆け込み寺を公益化し「公益社団法人日本駆け込み寺」に。 「たった一人のあなたを救う」。この言葉とともに、過去12年の活動歴の中で3万人以上の相談者の問題を解決した。(2014年現在)

被害者を救っても、加害者にアプローチしないとキリがない。

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ーーーー加害者である、元受刑者を支援しようと思ったきっかけを聞かせて頂けますか。

今まで13年以上、数でいうたら30000人以上もの被害者と向き合って来て、気づいたんよ。「このままじゃキリがない」って。

いくら被害者(女・子ども)を助けたところで、また加害者(男)は別の被害者をつくりよる。男は、見た目は女より大きいけど、実は女より遥かに弱い。

ということは、その加害者を救ってやれば、被害者周りの人間も含めて3人ぐらいは一気に救うことになると思った。これでようやく「両輪」が回るようになる。

だから、2014年にそれまでやってた、相談窓口である「駆け込み寺」とは別に、出所者を支援するための「再チャレンジ支援機構」を作ったんよ。

被害者を救うことには大きな価値がある。それは間違いありません。しかし、被害者がいるということは加害者がいるということ。被害者を救っても、加害者はまた次のターゲットを見つけ、新しい被害者を作り出す。とすれば、加害者にもアプローチをしない限り、一生その負の連鎖が続いていきます。

まさに「両輪」を「同時」に回していくことが、大事なのです。


「男は弱い」の意味

ーーーー「男は弱い」の意味をもう少し聞かせて頂けますか。

弱い人間っていうのは、自分より弱い人間を攻撃する。そうすることによって、自分の強さをアピールしてんねん。

あと、男は学習せえへん。そら個人差はあるけど、女は助けたら学習して成長していく人間が多い。でも、男はどんどんひねくれていく。

男は自分のちっぽけなプライドとか誇りを守ろうとして、変にツッパんねん。ましてムショあがりやったら住所不定のヤツもぎょうさんおる。やから女のとこに転がり込む。そんでクスリに手出したり、女に暴力振るいよんねん。そんなもん小便よりも役立たへんのに。だからそのまま負のスパイラルにハマっていく。そんで、そのまま行くとこまで行って、心が折れたら死ぬ。

これは、自分の身にも覚えがあります。自分に自信がないときは、他人を攻撃したり貶めたりしがち。結局それは、「自分は弱い人間です」とアピールしているに過ぎません。

また「女性のほうが精神的に強い」という意見にも同意です。感覚で言うと、男の強さは「硬さ」です。尖りすぎれば尖りすぎるほど、折れやすい。一方で女性の強さは「しなやか」なんです。例えていうなら「柳」のような。一見弱そうに見えて、実は強い方が、僕の周りにも何人かいます。

ーーーーそういった「弱い男」に対応するとき、どういったことを心がけているんでしょうか。

一回全部「枠」を外したる。それまでの経歴とか、看板とか、名刺とか。「見栄を張らんでええ状態」にしたるわけや。あいつらは落とし所が欲しいねん。

で、そっからわワシの「枠」にはめる。もう、躾や。挨拶から礼儀からみっちりやる。しかもここは歌舞伎町や。欲望はこの上なくある。それでも耐えれたら、変われる。普通になれる。

中には人を殺ってる人間もここには来る。だけど、ここで止める。

そうなんです。男は無駄に見栄を張りたがるんです。張り合いたがるんです。ただ、そこで「そんなことしなくても、あなたのすごさは分かってる」というメッセージを言葉や態度で示されると、ハッと我に返ります。玄さんは、そういったことをよく理解されているんでしょう。

また、最低限のコミュニーケーションや礼儀を身につけるには、一定期間の躾教育もやむをえない気もします。

ーーーーもし、その人が元暴力団員だったりしたら、元いた組との間に軋轢は生まれないんでしょうか。

全部ワシが直接あっちと話しをする。

地元帰っても、大体みんな最初は真面目にやんねん。2~3ヶ月なら。でも、そっから1回酒を入れたりしたら、一気に崩れる。昔の仲間が寄ってくる。そいつらは大体気が弱いし、意志がないから誘いを断れへん。

それでも「もう一回やり直したい」ってワシの元を訪ねてきたら、相手の組からワシに直接電話をさせる。歌舞伎町でこんなことしとったら、大体相手もワシの名前も知っとる。そこでビシっと「これまではそっちの付き合いやったかもしれんけど、今はコイツの保証人はワシ、今の付き合いはワシや。」と言って話をつける。

「どんな暴力団の組長相手にも、一切物怖じせずに話をつけれる人」なんていうのは、日本全国にどれだけいるのでしょうか。これまでの行動に裏打ちされたその言葉には、圧倒的な説得力がありました。


今年は「全員元受刑者」を前面に押し出した居酒屋をやる。

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ーーーー現在は新宿に居酒屋を出店していますが、今後の展開はどうお考えですか。

次はもっと「濃い」のをやるで。もう動き出してる。今の居酒屋は前科者もおれば、そうでない普通の子もおる。前科者いうても刑期の短かった子ばっかりや。

今度は違う。厨房、ホール、店長、ぜんぶ前科者で行く。入り口あけたらヤクザばりに「いらっしゃいませーーっ!!」とイカツイ顔した店員の声が飛んで来る。重大事犯でも、累犯でも関係ない。まさに「刑務所居酒屋」みたいな感じでやる。

ーーーーこれまでより、世間から向けられる目は厳しくなると思うのですが、その点何か不安等はありますか。

ない。冷やかしも上等。コソコソするから、逆に色々言われる。堂々としてる方がええねん。見世物じゃないけど、(前科のことを)聞かれたら答える。自慢でも卑屈でもなく。それでいい。車(交通系の犯罪)はよくて、万引きはいかん、そんなことは無い。今普通に生きとっても、全員が前科者予備軍や。

たしかに、客と揉めたりすることも可能性としてはある。もしかしたら、刺してしまうかもしれん。でも、それはワシが責任を持つ。

今まで様々な就労支援の記事を目にしてきましたが、どこも「短期刑」「初犯」「重大事犯NG」の条件があるところばかりでした。そこに「長期刑、累犯、重大事犯OK」の居酒屋ができれば、そんなスゴイことはありません。

アメリカなどでは当然のごとく行われている取り組みですが、日本では僕の知る限り行われていないこの取り組み。あえて「元受刑者色」を前面に押し出すスタンスも、賛否両論あるでしょうが、エンタメ的な要素として捉えれば、話題を呼ぶことは間違いありません。言われているように「下手に隠さず堂々とする」ことが、ハードルは高いものの、一度それを越えてしまうと本人にとっても楽だと思います。


雇用主は「雇う」よりも「辞めさせる」ことを怖がってる。だから、人材派遣を。

ーーーーその他にも、いくつか種を撒かれていると伺っていますが。

今考えてんのは、出所者の人材派遣や。出所者の就労支援がうまく行かん理由、分かるか?

企業が出所者を雇うのに躊躇するのは「辞めさすのが怖いから」や。

ほとんどの人間が出所者なんて雇ったことはない。いざ雇ってみて使いものにならんと分かっても、逆恨みで仕返しされそうと思えば怖くで雇えない。「もし刺されたらどうしよう?」ってな。

だから「人材派遣」やねん。

だって、これやったら企業も辞めさして逆恨みされることもないやろ。まあ、しかも絶対に強盗に入られんようになるしな。(笑)ブラック企業優先で行くで(笑)こういうのは排除したらアカンねん。それが逆効果や。だって無くならへんから。うまく折り合いつけれるとこを見つけんと。

「雇うことよりも、辞めらせることが怖い」

言われてみればその通りですが、言われるまでは中々気づきにくいこの視点。たしかに、人材派遣であれば多少トラブルがあっても、その後依頼しなければいいだけですし、妙なしがらみは生まれにくいといえるでしょう。

逆にいえば「この人には常勤で働いて欲しい」と企業が思えばそうできますし、働く側もそうしたチャンスがあれば、モチベーションは自ずと向上するでしょう。犯罪は防ごうと思っていても、どうしても防ぎきれないことが多々あります。罪を犯した人間を排除しようとすれば、余計に悪い流れが出来てしまうのは当然のこと。そういう観点からも、元受刑者と社会の接点を作り出し、偏見を払拭していくきっかけづくりとして、人材派遣というやり方は効果的なのです。

「絶対強盗入られへん」といったメリットは、前科がプラスに働く最良の方法のように思えます。受刑者だらけの居酒屋と同じく、そのときにその現場に密着させて頂きたいです。


出所者支援についてのスタンス

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ーーーー玄さんの出所者支援に対するスタンスを教えて頂けますか。

ワシは、数年前に日本国籍もとった。ほんで、今やってる一般社団法人の代表は弁護士や。メンバーには検事もおる。ワシは人から見ると「何やよう分からん存在」やから、そういった社会的に信用のある方たちの肩書を上手く活用させてもらって、出所者支援をする上で、どこの企業や団体にとっても「使いやすい状態」にしてあげてんねん。

線路を引きたい。異端者から先駆者になりたい。

ーーーーもうすでに、かなり先駆者になりつつあると思います。最後に、出所者支援で大事にされている心構えのようなものを教えて頂けますか。

出所者の「親」になるつもりでやってる。本当の親以上に。

人はみんな、誰かに見守っても欲しい生き物やから。それだけ、本人からしたら安心感がある。ネットワークから外れると、人はキツくなる。だから、大事なんは、その人間の人生を全部引き受けること。親になるということ。

親になる。

言葉にすればたった4文字ですが、他人に対してそこまで全力で向き合える人は本当にごくわずかでしょう。玄さんが言うからこそ「本当にその気持でやっているんだな」と心から思えます。

玄さんのインタビューをさせて頂いて感じたのは、その圧倒的な包容力でした。

玄さんの壮絶な生きざまを知っていた僕は、当初かなり気負っていましたが、そんな緊張は玄さんと話していると、あっという間に溶けて無くなりました。何も言われていませんが「大丈夫、全部受け止めたるから。素で来い。そのままで来い」そう言われている気がしました。

「本物の前では、いくら取り繕っても仕方無い」

そう、肌で感じたインタビューでした。これからも、玄さん他、新宿駆け込み餃子のみなさんの活動を追い続けて行きたいと思います。


<参考図書>

玄さんを知るには、まずこの1冊を。

<参考リンク>

株式会社 オフィスGEN HP
公益社団法人 日本駆け込み寺HP
・一般社団法人 再チャレンジ支援機HP